🍞 ブッフェ 🥐
五十嵐沙千子
京都の古いホテルの朝ごはんで、
前は一人前でサービスしてくれていたのですが今回泊まったらブッフェになっていました。
パンなんて20種類ぐらいあるご飯もあるお茶粥もある湯豆腐もハムもベーコンもオムレツも和食の煮物も焼き魚もホテル特製のフレンチトーストも麻婆豆腐もある沢山ある、、
ところがわたしには、「沢山」を見ると自動で「わたしには関係ないセンサー」が働いて目が食べ物に行かなくなってしまう、という癖があるので
いかに山海の珍味が山積みになっていようと
和食なら
ごはん半分、お味噌汁半分、糠漬け少し、生卵。
パンの場合は
小さい半分のトースト、半熟卵、サラダ少し、コーヒー。
…なんですけど、コーヒーはまだずーっと先にあるのでお行儀よくトレーを持って粛々とコーヒーへの道を辿るわけです。そうやって、遅々として進まないブッフェの行列が進むのを待っていると
わたしの前にいる小さいおばさんがフレンチトーストを5枚もお皿に盛り上げている。麻婆豆腐も野菜の煮物もシェフがその場で焼いてくれるシェフ特製オムレツもお味噌汁もカレー(驚)もトレーに満載で、その上プルプルのフレンチトーストを取ろうとするので重いだろうなぁ凄いなぁアクロバットだなぁと思ってそのおばさんの真剣な手つきに見惚れていたら
わたしの後ろの小さいおばさんがトレーでわたしの背中を押してくるんです💦早く行け。
いやわたしも先に行きたいんだけどだって前の小さいおばさんが先に進んでくれないんだもん。
でも後ろの小さいおばさんは根気強くわたしをトレーで押してくる。早く行け。
そのおばさんもフレンチトーストのところに早く行きたかったんです。早くフレンチトーストがたくさん取りたかったんです。目がもうフレンチトーストのところに吸い付いているんです。そのおばさんをフレンチトーストから隔てる邪魔な壁がわたし。
前の小さいおばさんがようやく先に進んでくれたのでわたしも進めて、やっとフレンチトーストの銀のトレー前に陣取ることができた後ろの小さいおばさんは幸福そうなため息をつきながらプルプルのトーストをやっぱり何枚もお皿に注意深く重ねています。見るとやっぱり麻婆豆腐と和風の煮物とフルーツ各種とシェフ特製のオムレツとハムとソーセージとお茶粥とカレー(やっぱり驚)がトレーに乗っている。
あぁあれも、あぁこれも、になっちゃうんだろうな〜。
これもある、あんなものもある、になっちゃうんだろうな〜。
嬉しいんだろうな〜。
目がキラキラ✨してるもんな〜。
朝からヨロコビに溢れてるんだなぁ〜。。。
なんか感慨深くなってしまった。
あれもこれもっていうヨロコビ、ってわたしにはなかったな〜。って思って。。
小さい頃から、そういうあれもこれもな場所に行くとブスッとしてしまう子供だったんです。わたし。
なんでだろう。
子供が好きなはずの甘いものでも、好きだったのはケーキバイキングではなくて母の時間のかかるお買い物を待つ父が背の高いカウンターだけのカフェでコーヒーを飲む隣に座ってソフトクリームをなめることだけで、、、それも全部は食べられなくて上の方だけをなめて満足してしまう。
いやわたしが好きだったのはソフトクリームよりも父の隣で高いスツールに腰をかけて届かない脚をぶらぶらさせることだったのかもしれません。
人が沢山いるのも食べ物が沢山あるのも苦手で、それならいらないわ、って悲しくなっちゃう癖がわたしにはあって、
だから女子ならするであろうスウィーツブッフェで目を輝かせてキャア〜💞💞✨✨って言ったことも人生一度もなくて、、、
そうか、でもよく歩いて疲れた暑い日の夕方に生ビールを飲むとわたしの目は輝くな。笑
わたしは女子ではなくてオジサンだったのか笑
そうか。
わたしは父の娘なんだな。
自分の好きなものだけを自分の食べたい量以上一口も食べない穏やかで頑固なビールが好きな父の娘なんだな。
好きなことをしたい。社交は嫌い。ヨイショも嫌い。人がそうすることを批判したことはないけれど自分は穏やかな顔の下で絶対に自分の規律を守り通した父が突然年末に倒れてひと月もしないうちに死んでしまった年から何年も経ちました。
そういえば今日はクリスマスイブ。
わたしの幼稚園で園長先生に頼まれた父が背の高いサンタさんになってくれたのも
サンタさんに何をお願いするの？と母に聞かれて
「お父さんもお母さんも一生歳を取らず死なないような時計が欲しい」と言って絶望して泣いたのも
わたしの小さい頃のクリスマス。
今日も、世界中の子供が楽しいクリスマスを過ごしてくれますように😊🎄🎁✨✨✨
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